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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)1205号 判決

原告

鈴木静子

右訴訟代理人

水野弘章

被告

高取勇

右訴訟代理人

高木輝雄

外一名

主文

原告が別紙目録記載の土地のうち、同目録(9)を除く土地につき、持分一五分の二の所有権を有することを確認する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

一、原告は「原告が別紙目録記載の土地につき持分一五分の二の所有権を有することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)  別紙目録記載の各土地は原告や被告らの実父高取桂重の所有するところであつたが、同人は昭和四〇年三月一〇日死亡した。

(二)  亡高取桂重の相続人は妻みす、長女み、二女よね、三女春子、四女原告、二男被告の六名であり、原告の相続分は一五分の二であつて、右各土地につき同持分の割合による所有権を相続によつて取得した。

(三)  しかるに右各土地につき、被告が単独で相続した旨登記されている。

(四)  よつて、原告は右各土地につき持分一五分の二の所有権を有することの確認を求める。〈以下省略〉

理由

一原告が亡高取桂重の相続人であることは当事者間に争いがないところ、被告は原告が「生前贈与をうけたことによつて相続分がない」旨のいわゆる相続分なきことの証明書に押印したのでその相続分を失つたと主張する。

しかし、原告がその意思にもづき右証明書に押印したか否かはさて措き、本件全証拠によつても原告が高取桂重の生前に原告の相続分である一五分の二(高取桂重の相続人が原告主張のとおりであることは双方間に争いがないからこれにもとづき計算すると原告の相続分はこのとおりとなる)にみあう財産の贈与をうけたような事実は認められず、従つて右証明書の記載内容は虚偽であるといわねばならない。

二しかるところ、本件のように相続人が「生前に贈与をうけたため相続すべき財産はない」旨の証明書に押印した結果、右相続人をはづして相続不動産につき相続を原因とする所有権移転登記手続がなされたが、実際にはそれに記載のような贈与がなされていない場合、要するに右証明書の記載内容が虚偽であるときには相続人がこの証明書に署名ないし押印をしてもその相続分を失うことはないと解すべきである。

けだし、現実に証明書記載のような贈与がなかつた以上、これに署名ないしは押印したからといつて当然に相続財産に対する持分を失う積極的根拠はないというべく、またかりに右相続人がその相続権を放棄する意思をもつていたとしても、これにより相続分を失うことを認めるのは相続放棄制度に対する一種の脱法行為を容認することにもなるからである。ただ、被告はこの点につき、原告が自己の持分を他の相続人に贈与したことになる旨主張するのであるが、原告の右書面への押印は法律行為ではなく、単なる過去の事実の証明にすぎないのであるから、これをもつて特定人への贈与の意思表示があつたと認めることは困難である。

以上のとおりであるから、原告は亡高取桂重の遺産につき前記割合による持分を失つていないというべきである。

三次に、別紙目録記載の土地中、(9)の土地を除くその余の土地が本件の相続財産であることは当事者間に争いがないところ、〈証拠〉によると昭和四五年五月二〇日現在右(9)の土地が被告の所有として公簿に記載されていることが認められるものの、これが高取桂重の死亡時である昭和四〇年三月一〇日(この点は双方間に争いがない)に同人の所有であつたことを認めるべき証拠はなく、また〈証拠〉によると、被告は昭和四三年一二月二日高取桂重から相続した不動産を第三者に売却したことが認められるけれども、この売却した土地と別紙目録(9)の土地との関連をはつきりさせる証拠のない以上、右(9)の土地を本件相続財産と認めることはできない。

四従つて、原告は別紙目録記載の土地のうち同目録(9)の土地を除く土地につき、高取桂重の相続人として前記一五分の二の割合による持分を有するというべきであるから、原告の本件所有権確認請求は右(9)の土地を除くそれ以外の土地については理由がある。

よつて、本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(宮本増)

目録〈省略〉

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